【変態の所以】
ある人がこんな事を言っていた。
「クラシック音楽をやる人なんて変態ですよ。
だから音大ともなると変-態の集まりですよ。」
目に見えない音という存在を操る感性なのだから、
一般人の理解と一線を隔しているというのは肯ける話ではある。
だがそれを違った角度から見た時、それはとても歪で狂おしく見えてしまう事もある。
たとえば性嗜好――
沢田いずみ25歳
彼女もまた4歳の頃からピアノ演奏を学んでいる、所謂「変態」だったのだ。
良家に生を受けた彼女は、結婚を来年に控えながらもミラクルに出演した過去を持つ。
理由は「オーガスムに達してみたい」というものだった。
そして…
SMは上級プレイなのだから、自分の経験した事のない世界を教えてくれるのではないかという期待感と、
拘-束され相手に全てを委ねるプレイならば、きっと自分もオーガスムを感じる事ができるに違いない。
というのが、ミラクルを選んだ理由だったのだが、彼女にはそれを確信できるだけの理由があった。
【4人目の先生】
彼女はこれまでに何度かピアノの先生を変えていた。
彼女に必要なのは、プロ奏者としてのレッスンではなく、あくまで嗜みとしてのレッスンだったからだ。
色々なタイプの先生から教わる事で幅が広がる事は、彼女にピアノを習わせた母親の方針にそぐわしい事だった。
これまでに女性の先生、初老の先生、外国人の先生と教わってきた彼女の次の先生は、中年男性であった。
驚くべき事だが、彼女はその先生のレッスン中にSM調教的な行為を受けていた。
そして、オーガスムを感じた事のない彼女が、最も絶頂に近づいたのがその時だったというのだ。
教える側、教わる側に分かれるピアノレッスンは、与える側、受け取る側に分かれるSMに似たところがあった。
そして、それまでの経験から、彼女はピアノの教え方は人それぞれであると知っていたから、すぐにはそれとは気付かなかった。
最初は肩に触れられ、腰に触れられ、やがてその指が、頬に、尻に、乳房に達したのだ。
エスカレートしていく内に、ようやく「これはおかしい」と認識したのだ。
【ピアノ・レッスン】
回を重ねるごとにレッスンは官能的になっていった。
何故だか彼女はその男の言う事に逆らえなかった。
性的な扱いを受けると分かっていながらも、2度3度とレッスンに足を運んでしまう。
リモコンローターを仕込まれ課題曲を演奏させられる。
スイッチをオンオフされる度に運指が乱れ、演奏が乱れる。
それを責められながら乳首を転がされ、鞭で打たれる。
ピアノの音色に混ざって、調教を施す先生の乾いた声と、彼女の艶っぽい喘ぎ声が響く。
室内には、それと分かるほどに彼女の愛液の匂いが充満していた。
防音されたレッスンルームという世界から隔絶された密室で、男の言いなりになっていき、
そして数十分間の調教を終えて、何食わぬ顔で一般社会へと戻る秘密性。
その全てに彼女が酔い痴れていくのに、さほどの時間は必要なかった・・・。
【共通点】
彼女は怖くなっていた。
先生の事が・・・ではなく自分自身に・・・。
まるで快楽の奴..隷...。
レッスンを受けている時の自分を、まるで自分ではないように感じる。
先生に命令されると従順になってしまう。
「合わないから先生を変えてほしい」
母親に頼もうかと考えをめぐらす内、
彼女は「何故先生の言いなりになってしまうのか?」を考えていた。
振り返れば自然と身体が火照ってしまうのだが、それを制して考える。
自室で思い悩む彼女を呼ぶ、父の声が彼女にそれを気付かせた。
先生の声色が、敬愛する父のそれに酷似しているという事に・・・。
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