八月最初の金曜日は午前中、といってもチェックアウト日時なら追い出される頃だが、相変わらず中出知男は、部屋一面のセミダブルベッドで、下着姿で寝転がっていた。彼は、パソコンに保存した、「面接時」の模様を、ニヤニヤしながら見ていた。マキとの面接時の動画を、繰り返し鑑賞していた。ふいに股間に手が伸びた頃、ハンガリー舞曲第五番の着信音が、鳴り響いた。物憂げにスマートフォンを手にして、青ボタンをタップすると、
「もしもし」
アサミの声だった。この日を面接日に指定していたことを、うっかり忘れていたが、
「こんにちは」
挨拶はする。こんにちは、と返したアサミは、
「言われた通りの格好になってます」
羞恥混じりの声で、中出に言った。おもわずニヤついた彼は、
「どうですか?朝っぱらから全裸で正座、それも、一時間」
「言わないでください・・・」
「嬉しいですよ、アサミさん。いうこときいてくれて」
「脚が少し痺れてきました・・・」
ふふふ・・・中出は薄笑う。
「笑わないで・・・。それに、エアコン切って、って言うから、エアコン切ってるんですけど、そのせいで汗まみれです・・・」
「いい姿ですよ、アサミさん」
「恥ずかしい」
少し息切れ気味の、アサミの声に、中出は喜ぶ。
ちゅうちゅうちゅう・・・ふいに彼は、吸引音を立て始めた。
「ああっ、ダメ・・・」
「何がダメなんですか?」
「だって、今日は、中出さん、面接なんでしょう?」
「そうですよ」
「なのに・・・お会いする前から、こんなこと・・・」
「気にしないでくださいな」
「面接の約束の時間は、十二時でしたよね?」
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