タクシー内は驚くほど静かだった。さっきまでの雑多なノイズが嘘のようにシャットアウトされ、二人の空間を無音が彩っていた。その空間を楽しむかのように、お互い敢えて会話をしていないのかと思うほどだ。居心地は相変わらずよかった。隣に目をやると、今にも鼻歌を歌いそうなミツハがこちらを見返した。
「なんか楽しそうだね。」
私は笑いながら言った。
「そう?なんか不思議だなと思って。だって、さっき会ったばかりの人とまさか映画を見に行くなんて思ってないもん。あー、私チャラいな、って。」
彼女は笑いながら言った。私は「んなことはない」、と否定した。タモさんみたいに。しばらく走ると、タクシーは見覚えのある風景で止まった。彼女を先に降ろし、会計を済ませる。
「えーっと、ここどこ?」
彼女は訝しげに言った。
「あ、家だよ。まだちょっと時間あるし、紅茶でも飲みながらちょっと話そう。」
私はさも当然そうに言った。少しの抵抗を見せる彼女
「大丈夫だよ。逆に何もしないでよね!」
私は念を押すように言った。彼女は、観念したかのように少し笑いながら抵抗する力を弱めた。
「アールグレイティーある?」
彼女は私の家に入ることに対する、自分なりの理由を探しているように思えた。
「んー、あったかも。」
私は笑いながら曖昧に答えた。彼女はそのまま私に手を引かれて、マンションのエントランスをくぐり抜ける。
上りのエスカレーターの文字板を眺めながら、とてもワクワクしていた。彼女の佇まいは相変わらずキュートだ。初めて会った時の印象がそのまま—もっとも、それは見かけについての話で、中身は竹を割ったような性格の子—だった。
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